東京都国立を拠点に、多摩地区で「こころの産業医」を目指す、きしもと産業保健事務所。代表の岸本雄(きしもと・ゆう)氏は、精神科専門医であり認定産業医として、患者さまのみならず、担当企業の社員の皆さまの心の健康と安全を支えています。
一方、東京都小平市にある多摩済生病院は、内科(一般・循環器・呼吸器・糖尿病)や外科、整形外科、精神科、皮膚科、リハビリ科など幅広い診療を提供し、地域の健康を支える総合病院です。
今回は、同院がきしもと産業保健事務所に産業医を依頼した経緯について、事務次長の武田様、看護部長の加藤様に、依頼前の不安や依頼後の変化、そして今後の展望までを、岸本との対談形式で詳しくうかがいました。
記録者:岩井なな
依頼前の状況:「産業医に深く関わってもらう、新たない体制づくりが必要になった」
— 依頼前には、どのようなお悩みがあったのでしょうか。

加藤看護部長:
前任の産業医の先生が退職されたことをきっかけに、新たな体制づくりが必要になり、産業医の選任を進めることになりました。
それ以前は内部の連携が弱く、産業医の先生にも深く関わっていただく機会がほとんどありませんでした。そのため、最終的な判断はどうしても看護部長1人に委ねられることが多く、私たち自身も「見えていない部分がある」と感じながら、手が回らない領域も多いという歯がゆい状況でした。
岸本先生を選んだ理由:「話しかけやすく、信頼して相談できると感じたことが決め手」
— なぜ最終的に岸本先生に依頼することを決めたのでしょうか。
武田事務次長:
まず、当院に隣接する特別養護老人ホームで産業医をすでにされていたこと、そして精神科医として当院で活躍されていたことも大きかったです。患者さんへの手厚いサポートや普段の丁寧な対応を間近で見ていて、岸本先生なら安心してお願いできると思いました。
精神科医として勤務されていた頃から、内線で呼び出してもいつも気さくに対応してくださったり、すれ違う職員一人ひとりに丁寧に挨拶する姿勢も印象的で、院内の他のスタッフからの信頼も厚い様子がうかがえました。「話しかけやすく、信頼して相談できる方」と感じたことが決め手でしたね。
― 他の候補との比較は行いましたか?

加藤看護部長:
複数の候補者に見積もり依頼と面談を行い、比較検討を重ねていました。その中で、特別養護老人ホームで産業医として勤務された経験に加え、過去に当院の衛生委員会に関わっていただいており、院内の状況をすでに理解していただいているという点から「やはり岸本先生しかいない」という結論に満場一致で至りました。
病院の現状をよく把握してくださっている先生にお願いすることが、私たちにとって最も安心で、最良の選択だと考えたからです。
依頼後の変化:「職場の安全について前向きな言葉のやり取りが増えた」
— 実際に依頼してみて、どのような変化がありましたか。
加藤看護部長:
依頼した直後の時期は、私自身が看護部長としての経験をこれからまさに積み始めるという段階でもあり、経験したことのない出来事が次々と起こっていた時期でした。ちょうどそのタイミングで産業医として岸本先生に入っていただき、まさに“1から10まで”丁寧に教えていただきながら、一つひとつ進めてきたという実感があります。
先生の視点は、私たち看護師や医療安全・感染対策を担当する管理者とはまったく異なり、毎回大きな気づきを与えてくださいます。
私たちも定期的に職場巡視を行っていますが、どうしても“患者さんの目線”に寄って見てしまうところがあります。このため「職員が安全か?働きやすい環境か?」という視点には、なかなか気づけないこともあります。先生は“職員の目線”で見てくださるため、私たちにとって「ここは見えていなかった」と気づかされる場面が多く、病棟・外来を含めたさまざまな安全面の改善につながっています。
職場巡視を重ねていただく中で、職員から自然と改善提案が出るようになり、職場全体の安全意識も高まってきました。
武田事務次長:
やはり岸本先生が現場に足を運び、職員と直接会話を重ねてくださることで、職場全体に大きな変化があったと感じています。先生が話を聞いてくれる安心感から、職員も自然体で意見を出しやすくなり、そこから先生がさらに質問を重ねることで、前向きな言葉のやり取りが増えました。

岸本:
依頼いただいた当初を振り返ると、「もっと素敵な病院に、患者さんだけでなく、働く人にとっても居心地の良い職場になるためにはどうしたらいいだろうか?」そういう視点を今から一歩ずつ探っていこう…そういうフェーズだったように思うんです。
その上で意識したのは「職員が生き生きと働くには何が必要か」「将来トラブルになりそうなタネをどう未然に防ぐか」それを全員で考え、言語化し共有していくこと。その積み重ねを、皆さんと一緒につくりあげていきたい…そう思って取り組んでいたように思います。
就任直後にちょうど休職者の対応があったこともあり、「まずこの方をどう支援するか」というところから始まったと記憶しています。
ただ、職員数も100名を超えているので、個別ケースの対応だけでなく、安全衛生委員会を通して組織的な話し合い、取り組みも必須になります。私自身も最初から迷いなく進められたわけではなく、皆さんと一緒に手探りで進めてきました。今では、モニタリング内容の共有 → 巡視の振り返りといった流れが定着しましたが、当初は試行錯誤しながら一緒に形を作っていったように思います。

短期的な成果と中長期的な変化:「職員の復職までの流れを院全体で連携してサポートできるようになった」
— 依頼後、解決した課題はありましたか?
加藤看護部長:
短期的には、まず休職者が出た際に、復職までどのような流れで対応すべきかを丁寧に指導していただき、これまで以上に納得感を持って対応できるようになりました。
これまでは、面談を看護職員である私と休職者本人のみ行っていましたが、現在は最初にまず岸本先生が対応し、産業医として中立の立場から「なぜこの手続きが必要なのか」「復職までにあと一歩必要なことはなにか?」アドバイスをしてくださっています。そのため、休職中の職員も「自分は何をすべきか」「どのように復職へ向かえばよいのか」がわかりやすくなり、精神的な不安も大きく軽減されていると感じます。
— 特に心に残っていることはありますか?
加藤看護部長:
岸本先生と武田事務次長、私の三名での作戦会議を重ねながらの取り組みは、間もなく一年を迎えますが、ようやくベースが固まってきたように感じています。通常は体制づくりに三年ほどかかると言われますが、着実に進んでいるように感じています。
岸本:
最初はまずは動き始めることが大切だと考えていました。実際に巡視をし、講話をし、ケースについて意見交換を重ねる中で、徐々に組織全体の課題点や強みが見えてきます。
それぞれの会社で状況は異なりますが、過去の経験やうまく対処できた経験をもとに、それを補強する年間スケジュールに組み込むこともあります。例えば、ハラスメントの話題が出た際には、実際に院内の相談窓口に何件くらい相談があったのか?内容に変化はあるのか?より具体的な一手を進めるためにアンケートを行うのか?それとも相談業務だけでなく、研修や調査をするのか?…取り組みを少しずつ決めていくといった流れです。最初から明確な目標や計画を設定するのは難しいため、テーマやタイミングを試しながら手探りで進めています。

サービスの評評価:「岸本先生・病院・患者の三者で同じゴールを共有でき、業務が進めやすくなった」
— 対応や説明のわかりやすさはいかがでしたか?
加藤看護部長:
復職支援の進め方がわからない状態からのスタートでしたが、岸本先生が現場へ丁寧に聞き取りを行い、必要な資料を提示してくださったことで、プロセスを具体的に描けるようになりました。普段のメール返信も非常に早く、大変助かっています。
また、復職に向けた意思決定に必要な根拠を明確に整理してくださるので、主治医・人事・現場が同じ情報を基に判断できるようになりました。その結果、復職者自身の覚悟や前向きな姿勢も引き出されていると感じます。
これまで曖昧だった対応範囲がはっきりし、組織としての方針も明確になりました。岸本先生・病院・患者の三者で同じゴールを共有できるようになり、業務もより進めやすくなったと実感しています。
岸本:
意思決定の根拠を丁寧に洗い出し、医師・人事・現場の誰か一人が情報を抱え込むのではなく、全員が同じ情報を共有しながら検討できる体制ができたことは非常に大きいと思います。復職した後に働いていただく具体的な作業やタイムスケジュールをみんなで見ながら「今の状態からみてどの作業までなら安全か?」「実際現場はどこまで配慮できるか?」を一緒に考えていく、この共同作業こそ、復職支援においてはとても大切です。
この仕組みは今後ほかの部署にも展開したいと考えています。実際、主治医にも同じ資料を共有することで、主治医・産業医・人事・現場、そして本人自身が、「復職に向けて何をすべきか」「どんな準備が必要か」を同じ目線で確認できるようになります。
全員が同じ情報を基に判断できることが、復職支援の質を大きく高めると感じています。

武田事務次長:
復職を目指す職員自身にも、これまで以上に「覚悟を持って戻る」という意識がしっかり芽生えていると感じます。リハビリにも具体的に取り組むようになりました。
これまでは明確な基準がなかったため、どうしても取り組みが曖昧になりがちでしたが、岸本先生が面談の中で「何ができていて、何がまだ難しいのか」を丁寧に説明してくださることで、職員も「できるようになるために、自宅でリハビリをしよう」と前向きに行動できるようになっています。その結果、しっかり準備を整えたうえで復職につながっています。
特にメンタルヘルス不調がある職員の場合、「本当に職場に戻って大丈夫なのか」という不安が大きいことがあります。しかし、岸本先生が生活記録表をもとに職場復帰プランを考え、職員自身がその進め方にそって取り組むことで、少しずつ自信を取り戻し、安心して復職できるようになりました。これまでの対応とは全く異なる変化だと感じています。
推薦の言葉:「企業に偏りすぎず、常にフラットな姿勢で調整してくれる産業医」
—きしもと産業保健事務所をどのような企業におすすめしたいですか?
加藤看護部長:
職員に寄り添いながら話を聞き、会社側に必要な意見をしっかり伝えて指導してくださる産業医です。企業に偏りすぎず、常にフラットな姿勢を大切にされている点を伝えたいです。現場を理解し業務内容を把握した上で関わってくださるため、病院とは特に相性が良いと感じます。衛生委員会が整備されていない中小企業でも、いてくれると安心につながると思います。
私は看護部長なので、職員と話すとどうしても立場上「上の人」にみられてしまい、相手の方も「病院側の人でしょ」と若干身構えられてしまいます。ただそんな時でも岸本先生は、職員に寄り添いつつ、中立の立場で、病院側の視点もフォローしてくださるので、調整役としてとてもありがたい存在です。
武田事務次長:
先生は本当に職員に寄り添いながら話を聞いてくださいますし、会社側に対しても必要な意見や指導を的確にしてくださいます。その両面からのサポートがとても助かっています。先生と話し合うことで、支援や対応の範囲が明確になります。以前は「本当に復職させてよいのか」という漠然とした不安がありましたが、先生とのやり取りを通じて具体的に理解できるようになりました。
岸本:
私は本人寄りに寄りすぎないよう意識しつつ、会社側が現実的にどう対応できるかを考えながら調整するようにしています。実際に本人と面談する前に必ず会社側とも話をし、働く環境の現実や提供可能な配慮の範囲を確認します。会社は働く場であり、治療の場ではないため、無限の配慮はできません。最終的には、会社がどこまで支援でき、本人がどこまで取り組む必要があるかを明確にすることが大切だと思っています。
もちろん一筋縄にはいかないこともあります。でもこうして密に連絡をとってくれること、産業医独りにただ判断を投げるのではなく「チームで一緒に考える」関係性が構築できていることが、産業医活動をするうえでも大きな支えになっています。
本日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。今後も職員の安全を守るべく、三人四脚で取り組んでいきましょう。よろしくお願いします。