2026年9月25日、四谷にて、杜若経営法律事務所の井山貴裕先生と、
「運転禁止薬を服用する労働者の自動車運転」をテーマに、産業医×弁護士のセミナーを開催しました。

小規模な会ではありましたが、その分、講師が一方的に話すのではなく、「この場合はどう考える?」「会社はどこまで確認すべき?」「私はこう思うんだけど……」と、参加者も交えてかなり率直な意見交換ができました。
今回、特に印象に残ったのは、「責任」という言葉がいかに曖昧で、一人歩きしやすいかということでした。
主治医は「最終的な運転可否は本人・会社の責任で」と言い、
会社は「医師がOKと言ってくれれば責任が軽くなるのでは」と考え、
産業医も「運転可能と書いて事故が起きたら、自分の説明責任が問われるのでは」と考える。
こうして、あたかも一つの「責任」を誰かに引き受けてもらおうとする構図が見えたように思います。

しかし実際には、交通事故の第三者に対する損害賠償の問題と、会社と従業員本人との間で問題となる安全配慮義務は別の問題です。
また、仮に主治医と産業医の双方が「運転可能」と意見していたとしても、その意見書が会社にとっての免罪符になるわけではありません。
逆に、事故リスクを避けるため「薬を調整してほしい」と会社側から治療変更を求めれば、今度は病状悪化など別のリスクを生みだします。
さらに運転させないという判断をすれば、配置転換や退職勧奨など、今度は雇用上の問題が生じうる…。
つまり、どの選択肢を取ってもリスクやトラブルを完全にゼロにすることはできない。まずこの事実を受け入れることがスタートであると岸本は感じました。

そのうえで今回の議論で見えてきたことは、
「どの証拠が最も強いか」という点ではなく、
「判断を下すのに必要な情報をどこまで手間暇かけて集めたか」の方が重要である…という点です。
添付文書、主治医意見書、産業医意見書、生活記録表、試し勤務中の業務日報。
それぞれを単独で絶対視するのではなく、これらの情報を組み合わせて、どこまで言えるか?どこまでは言えないのか?を整理する…このプロセスが重要だと感じました。

主治医に対して単に「運転できますか?」と二択で尋ねるより、
・病状はどの程度安定しているのか
・副作用はどの程度あるのか
・運転制限が必要と考えるのであれば、その理由は症状・副作用なのか、添付文書上の記載なのか
・どのような勤務条件であれば医学的に懸念が少なくなるのか
といった情報を聞く方が、主治医も答えやすいし、会社も判断を下す材料に使いやすいと思いました。
そして産業医には、主治医から得た医学情報と、会社が持つ勤務情報・実際の就業状況をつなぎ、
少なくとも
「明らかに運転を避けるべき状態なのか」
「まだ情報が足りないのか」
「医学的には検討し得る状態なのか」
を整理して会社へ返す役割がある。
主治医と会社の間で、医学と仕事を接続することこそ、産業医に求められている機能の一つなのだと改めて感じました。
今回のように、一つの難しい事例を産業医、弁護士、社労士がそれぞれの立場から検討し、参加者も交えて議論する形式は、とても刺激になりました。
今後も運転問題に限らず、ハラスメントに由来するメンタルヘルス不調など、「医学だけでも、法務だけでも、労務だけでも答えが出ない」事例を検討し続けたいと思いました。
ご一緒いただいた井山先生、そして率直な意見をたくさん出してくださった参加者の皆さま、本当にありがとうございました。